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エッセイ2020

 

申 琪榮

「2020年、コロナ禍と女性の政治参画」

シン  キ  ヨン

 

2020年、コロナ禍と女性の政治参画

 

 2020年はグローバル・ジェンダー・ギャップ指数がもたらした衝撃とともにスタートしたと言っても過言ではないだろう。同指数はこれまでも毎年年末に発表されてきたが、2019年末に発表された日本の順位が前年度から11位も下がって過去最低(調査した153か国のうち、121位)となったことで大きな反響を呼んだ。すでに指摘されているとおり、日本の順位が低いのは政治と経済分野の男女格差が縮まらないからである。両分野ともに女性の進出は依然として進まず、順位は下落を続けてきた。またこれまでもジェンダーギャップ指数はしばしば言及されてきたが、今年ことに大きな話題になったのは、安倍政権が「女性が輝く社会」を政策目標に掲げてきたにも関わらず結局目立った成果をあげられなかったからであろう。例えば、2016年に経済分野における女性の進出を促進するために「女性活躍推進法」を、2018年には女性議員を増やすために「政治分野における男女共同参画を推進する法律」をそれぞれ制定したものの、成果を出せないまま安倍政権は幕を閉じた。

 

 それと対照的に、今年はコロナ対策に優れた海外の女性政治リーダーたちが大きな注目を集めた。政府が率先して市民の命と健康を守ろうとする姿勢と、感染予防のために協力を求める彼女らの冷静で説得力のあるコミュニケーション能力に多くの人々が触発された。市民の声が届く政府、市民に寄り添う政治の重要性を改めて気付かせてくれたと思う。そのような気づきは2020年の世界の政治に大きなインパクトを与えた。これまで政治を身近なものと感じていなかった人々も政治への関心が高まり、政治に参画する女性や若者が増えたのである。2018年からの#MeToo運動に続き、コロナ禍の経験は多様な背景を持つ人々が政治に進出する一つのきっかけとなった。

 

 今年国政選挙があった国々の状況を見てみると、そのような変化の兆しが見えてくる。例えば、今年1月には台湾の総選挙があった。台湾初の女性総統である蔡英文氏は前回を130万票上回る票を獲得し(57.13%)再選を果たした。彼女が率いる民進党も立法院の過半数を維持し、女性議員は前回よりさらに増えて41.6%(47名)となった。この数値はアジアでもっとも高い数値である。また日本とは違って、台湾の政党は与野党の女性議員の数に大きな差はない。蔡英文総統は中国に対して毅然とした態度を取ったことで市民の評価を得た以外にも、2019年にはアジアで初めて同性婚を合法化するなど多様性を重んじる政策を打ち出してきた。さらに今年はコロナ対策においても決断力ある政策を実施して世界の注目を浴びた。危機においては女性リーダーは相応しくない、という偏見を彼女は打破して見せたのである。

 

 コロナが本格的に世界に広がった4月には韓国で国政選挙が行われた。コロナ対策に成果をあげた与党が大勝利を収める結果となったが、女性議員はわずか2ポイント増えるにとどまった(19%)。韓国は近年、若者や女性たちの間でフェミニズムが盛んになり、#MeToo運動が社会を大きく揺さぶった。しかし、女性たちの声はなかなか政治に届かず、フラストレーションが高まっていた。今年の選挙でも主要政党に変化が見込めないと感じた女性たちは男性優位の既成政党に働きかけ続けるより、自ら政党を立ち上げ闘うという新しい試みに挑んだ。韓国では史上2度目となる「女性政党」の立ち上げである。わずか数ヶ月で立ち上げた女性政党は、各世代の代表からなる執行部で構成され、あらゆる性暴力の根絶というシングルイシューを掲げて選挙に挑んだ。議席を獲得するには至らなかったものの、20万票を獲得した。数多くの政党の中で女性政党に一票を投じた20万人の思いは重く受け止めなければならない。同じ時期にイスラエルでも女性政党が立ち上げられるなど、自国の男性政治に失望した女性たちは「女性政党」の試みを通じて政治に警鐘を鳴らした。

 

 世界の注目を集めたアメリカの選挙はどうだろうか。アメリカ大統領選挙は、2年ごとに行われる下院選挙と、議員の1/3が対象になる上院選挙が同時に実施される。今回の選挙では民主党のバイデン氏がトランプ大統領を破って勝利したが、副大統領に初めて有色人種の女性、カマラ・ハリス氏が決まったことで歴史的な選挙となった。ハリス氏はカリフォルニア州の上院議員で以前から女性大統領候補の一人として注目されていた。ハリス氏の当選によって、女性が最高のガラスの天井を打ち破るのに後一歩のところまで近づいたと言えよう。皮肉なことに、トランプ大統領在任の4年間は女性の政治参加が最も進んだ時期でもあった。彼のミソジニーや白人優越主義に危機感を覚えた女性たちがそれに抗議する大規模なウィメンズマーチを2017年から始めたほか、直接政治に参加しようとする機運が高まったからである。「女性の年」と言われた2018年に女性議員が多く増え(主に民主党議員)、今年も下院の女性議員がさらに増加して(主に共和党)141名(26.4%、うち下院が117人、上院が24人)が当選を果たした。非白人女性も51名といずれも過去最多となった。

 

 コロナ禍は人々に政治の重要性について認知する契機となったことで、政治を変化させる力をも生み出した。日本でもコロナ禍中に繰り返された政策の失敗は、女性や若者が政治に関心を持つきっかけとなった。しかし、秋に誕生した新政権からは、男性中心的な従来型の政治に変化をもたらす兆しは感じられない。高齢男性らの顔ぶればかりが並ぶ自民党党幹部の写真が時代遅れの象徴として大きな話題になったほどだ。誰もが危機にある今こそ、みんなにとって生きやすい社会を実現することが政治の最優先課題である。そのためにまずは、それらの課題を解決する責任を担うはずの政治、そのものが大きく変わらなければならない。

 

 

 

申  琪榮(シン  キヨン)

 

米国ワシントン大学政治学博士、お茶の水女子大学教授、(一社)パリテ・アカデミー共同代表。

近著に『女性の参画が政治を変える――候補者均等法の活かし方――』(共著)、“An Alternative Form of Women’s Political Representation: Netto, A Women’s Party in Japan,” Politics & Gender、“Women’s Parties: A New Party Family,” Politics & Gender(共著)、“Gender, Election Campaigns and the First Female President of South Korea,”『ジェンダー研究』など多数。

 

 

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ブックサポーター 申 琪榮さんが執筆した本

あざれあ図書室

「性化された権力

 -#Me Too運動が明らかにしたハラスメントの実態と変革の可能性-」

(『女性労働研究 第63号』すいれん舎 2019年)

 

世界各国に広がった#Me Too運動を、発端国アメリカと影響の大きかった韓国の事例をもとに、性暴力・セクハラを起こす権力構造の仕組みを考察しています。また、日本での#Me Too運動がなぜ社会的承認を得られないのかについても言及しています。

 

 

『女性候補者のなり手を増やすための試み

-パリテ・アカデミーの実践が示唆すること』

(『女性の参画が政治を変える』信山社 2020年)

 

日本の政治分野になぜ女性が少ないのかを分析し、自らが立ち上げた「パリテ・アカデミー」の現状を解説します。女性候補者として若手女性に重点を置く意味や「パリテ・アカデミー」が他の政治塾と異なる理由、そして、アカデミー実践の成果と今後の問題点を考察しています。

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