男女共同参画WEBマガジン

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自分らしく生きるためのヒントを見つける旅にでよう

インタビュー2017

この人に聞く!

草野 智洋さん

(静岡福祉大学准教授・静岡県ひきこもり支援センタースーパーヴァイザー)

「ひきこもり支援の現場から」

男性特有の生き辛さ

 ひきこもりの7割以上は男性という調査結果があります。考えられる理由のひとつは、女性よりも男性のほうが、学歴や就労への期待といった社会参加のプレッシャーが大きいことです。女性の場合は、仕事をしていなくても「主婦」や「家事手伝い」として社会的に容認されやすい環境があります。一方で、学校を卒業して働いていない男性に対しては「無職」や「ニート」といった否定的なラベルが貼られることが多く、「学校→就職」というレールから外れた多様な生き方が許容されにくい面があります。

 

 たとえ学校にも行かず仕事もしていなくても、堂々と自分の好きなことをして人と関わって暮らすことができれば、自宅にひきこもる必要はありません。しかし現実には、学校生活や職業生活に失敗すると、多くの人が周囲からの視線や自己評価に耐えられなくなり、ひきこもってしまうことになります。

 

 また、「援助要請行動」と言って、誰かに相談に行くなどのSOSを求める力は、一般に女性のほうが男性よりも高いと言われています。男性には「男は弱音を吐かない」、「男はこうあるべき」という文化的な規範の影響や、それを内在化したプライドの高さがあり、誰にも助けを求められずにひきこもるという行動をとりやすいと考えられます。

 

 一方で気をつけておかなければならないことは、たとえ「ひきこもり」というラベルが貼られていなくても、ひきこもりと同じような心理的な生き辛さを感じている女性は存在しているということです。ひきこもりは男性の問題というイメージが強くなりすぎることによって、このような女性の生き辛さが理解されなくなることのないよう、気をつけておく必要があります。

 

生きる意味とひきこもり

 現在のひきこもり支援における課題は「高年齢化」です。ひきこもり状態が長期化し、当事者が40代以上になってくると、どこかに雇われて就職するということは非常に難しくなります。心理的には「働こう」、「働きたい」という前向きな気持ちが生まれたとしても、社会的にはそのような人を受け入れてくれる職場がどれだけあるでしょうか。

 

 ロゴセラピーという心理学の考えでは、人間にとって最も重要なことは、自分が生きることの意味を見出すことです。もしも、ひきこもり状態にあっても自分が生きることの意味を実感できるのであれば、それで問題はないかもしれません。しかし、ひきこもり状態にある人は、自分が仕事をしていないことや社会の役に立っていないということによって、自分など生きていても意味がないと感じてしまいがちです。

 

 働くことや何かを産み出すことは、確かに最も典型的に生きる意味を実感できる方法です。しかし、それ以外にも生きる意味を感じることはできます。それは、自然や芸術や人とのつながりなど、何かを体験することです。経済的な観点から見ると、働くことは生産にあたり、体験することは消費にあたることが多いでしょう。「働かざる者、食うべからず」という風潮の中で、働くことのできない人は後ろめたさを感じ、消費という形で社会と関わることからも撤退してしまいがちです。しかし、それではますます自分が生きていることの意味を実感することが難しくなり、ひきこもりから脱却しようという前向きなエネルギーは生まれてきません。生産という形で社会と関わることができないのであれば、まずは消費という形で社会と関わり、少しずつでも生きることの意味を感じられるようになってくるなかで、ひきこもり状態からの回復のプロセスが始まっていきます。

 

 ひきこもり状態だった人が突然働き始めることができれば、問題は一気に解決です。しかし、できないことをやろうとしてできないと落ち込んでいるだけでは意味がありません。支援者も家族も当事者も、大切なことは現実にできる行動の選択肢の中から何を選択するかです。ひきこもりという複雑な問題に特効薬はありません。焦らず慌てず諦めず、できることを一つずつやっていき、一歩ずつ進んでいきましょう。

ブックサポーター ひきこもり支援の現場から

あざれあ図書室

『~果てしない孤独~

     独身・無職者のリアル』

(関水徹平・藤原宏美

                     扶桑社 2013年)

20~59歳までの仕事もなく、結婚もせず、家族以外との接点がない「スネップ」は、推定約162万人と言われます。彼らの社会的背景や潜在的なスネップの実態についてとりあげ、どうすれば支援できるのか考えます。

『定年夫は、なぜこんなに

                 「じゃま」なのか?』

(西田小夜子

    ソニー・マガジンズ 2004年)

定年後何もすることがなく、日がな一日、パジャマ姿でテレビを見ている「みのむし」みたいな夫。妻が心身症を病んでから、原因が自分だということに気づいても遅いのです。定年後の男性をひきこもりにさせない・ならない方法がわかります。

『ひきこもる女性たち』

(池上正樹

    KKベストセラーズ 2016年)

「ひきこもり」の公的調査には、主婦や家事手伝いは含まれていません。実際にはひきこもり状態であっても、助けの声をあげられず、つながりたくてもつながれない女性たち。“見えない存在”とされてきた彼女たちの実態に迫ります。

『世界一やさしい精神科の本』

(斎藤環・山登敬之

           河出書房新社 2011年)

第2章でひきもこりについてとりあげ、不登校になったらどうするか、なぜ日本にひきこもりが多いのかなどをわかりやすく説明し、人とつながることがいちばんの薬と伝えます。中高生向けですが、大人の教養書としてもおすすめです。

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