自分らしく生きるための
ヒントを見つける旅にでよう

エッセイ

Essay

ひとりだけど、ひとりじゃない

和田 靜香さん

ライター

 私の手元に、ピンク色の表紙の冊子がある。タイトルは「中高年シングル女性の生活状況 実態調査報告書」といい、作ったのは、「わくわくシニアシングルズ」という団体だ。中高年シングル女性とは「同居している配偶者やパートナーがいない単身女性で、40歳以上。独身、離婚、死別、非婚/未婚の母であり、子どもや親、兄弟らと同居している人も含む」としている。

 私もこの中高年シングル女性の当事者で、59歳、フリーランス、都内に暮らす独身(ちなみに静岡県沼津市出身)。とはいえ、自分がこういう属性であることを、この団体の代表である大矢さよ子さんと2022年に出会うまで意識したことはなかった。たまたま(旧)ツイッターへ「中年女性たちが集い、みんなでご飯を食べられるような居場所が欲しい」と書きこんだらバズり、それを大矢さんが見つけて声を掛けてくれたのだ。

 正直なところ、それまで私はずっと生活が苦しく、より安いアパートを探しては転々としていた。なかなか将来どころか、今日の暮らしも見通せず、不安だらけ。なんで私はちゃんと就職をしなかったのか? 自分が悪い、自分のせいだと思いこんできたが、大矢さんと話すと、それはどうやら私の属性に関係していることが分かって、なんというか驚いた。目からうろこが落ちた。

 この国で女性がひとりで生きるという選択をすると、特に都会ではいともたやすく生活苦に陥る。なのに女性支援が若年層や子育て中の女性へ特化してしまい、単身女性、特にこれから子どもを産む可能性が低い中高年女性は隅っこに追いやられ、セーフティネットからこぼれおちると知った。私は、そこに居ないかのように透明にされているらしい。でも、そういう私のような境遇の仲間が実は大勢いると分かった。

 中高年シングル女性の生活困難は様々。働いている人の約半数が非正規で賃金が低く、ピンク色の冊子の調査でも年収300万円以下が半数を超えているのが分かる。働いても年収200万円に届かない層も3人に1人いて、実は私もずっとそれぐらいのあたりを生きてきた。ゆえに高齢になれば年金も低くなり、やはり調査では月額10万円以下が半数を超えている。これから先は、もっと低くなるだろう。なのに、年を重ねるほど住む所にも困るのが現状で、「わくわくシニアシングルズ」はそうしたことにひとりで向き合うのはたいへんだから、みんなで知恵を出し合い、縁をつないで乗り越こえようと結成されたという。少しずつ制度を変え、私たちが暮らしやすい社会を作るためには、シングルの女性たちがみんなでまとまって塊となり、ともに動いて声をあげていくべきだという。団体になるのか……。ずっと一匹狼で生きて来た私にはなかなか難しいことに感じられるものの、でも、数でまとまるということは政治を動かす原動力になる。大矢さんに教えられた、大事なことだ。

 それからは「わくわく~」の集会に私も参加したり、調査にも協力をしている。また取材を受けたり、逆に取材をしたりして、積極的に当事者として発言をするようになった。多くの仲間に出会い、それぞれの体験や困ってること、いろんな話も聞いた。独身でフリーランスで生活費や住宅に困り、いつもあたふたして暮らしている私のようなシングルもいれば、仕事やお金はあるけど、ずっと独身で暮らしてきたことに不全感を抱かされてきた人もいる。就職氷河期世代で、働いても評価されることのない非正規職を転々として、これから先が見えないという人もいる。親や夫の介護を経てひとりになり、ハタと気づいたらお金も家もない、どうしよう?という人もいる。恋人の暴力で傷つき、ひとりを選んだ人も。いろんなシングル女性がいて、それぞれが傷つき悩み、それでも必死に前を向いて生きている。

 そうした一人ひとりの女性たちの声を聞くうち、私は何か力を得たような気持がしてきた。女性たちが「私はこれが苦しい」とあげる声に私はひとりだけど、ひとりじゃないと思える。雇用、収入、年金、介護、住宅と、私たちの前には相変わらず高い壁が立ちふさがっているけれど、いっしょに声をあげていけば、きっと世の中がもっと生きやすくなるはず、いや、生きやすく変えていけるんだと強く思う。実際、国会でもとりあげられ、以前より中高年シングル女性への注目は集まっている。
自分の困難を語り、声をあげ、いっしょに歩んでいこう。私は仲間たちに言いたい。私たちには力がある、と。

プロフィール

和田 靜香 さん
和田 靜香(わだ しずか)
プロフィール/1965年生まれ。静岡県沼津市出身。ライター。20歳で音楽評論家/作詞家の湯川れい子さんのアシスタントに。その後フリーのライターとして音楽や相撲などエンタメを中心に執筆。44歳から10年以上アルバイト生活を送り、コロナ禍でバイトがなくなったときに衆議院議員・小川淳也氏と政治問答を重ねた「時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。」(左右社)を出版。以降、政治分野の執筆を続ける。
 
X