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エッセイ2022

 

イシヅカユウ

「雑な価値観にNO」

 

雑な価値観にNO

 

 私のヘアスタイルは、前髪がぱつんと切りそろえられたロングヘアである。

  実はこれは、もともと肩くらいのおかっぱだったのだが、そろそろ長くなってきたから切ろう切ろうと思っているうちに仕事が来てしまい、ヘアスタイルが変わると撮影に支障が出ることなどもあるからと遠慮しているうちにこの長さになってしまった挙句、未だタイミングを逃し続けて切ることができないだけだったりする。

 

 しかし、この髪型で様々な媒体に出ていると、それを「女性らしさ」の記号として認識しているかのように受け取られてしまい、すごく雑だなと思うことがある。

 つまるところそれは、世間の「トランス女性は女性より女性らしくあるものだ」というイメージのせいであるが、それを感じるたびに、そもそもその「女性らしい」とは本当に正しいものなのか?と思っている。

 

 小さい頃、髪を伸ばすことを許されなくて羨ましかったりはしたが、あくまで女性らしさにではなく、自分が自由にさせてもらえないことを自由にできる、ということへの憧れだった。髪の長さで男性女性を判断する価値観も、自分の感覚というよりは親世代や学校の感覚だったし、それも現状に即しているかといえばそうでもなく、さらに上からの世代に倣っているだけの形骸化したもののように思う。

 そもそも、戦後、特に1960年代頃以降女性のショートヘアなんてザラだし、70年代には、芸能人では男女共に髪の長い人も短い人もいたはずだ。そして私が生まれ育った頃には女性誌に載っている流行ヘアスタイルの大半はショートヘアだったし、キムタクや江口洋介はミディアムロングだった!

 「女は髪が長く、男は髪が短い」という考え方は学校で初めて触れた感覚だったし、小学生の私はそんな規範(髪型だけでなく、体操服の色や制服の形が男女で分かれていることなど)を、大人が雑な感覚で勝手に決めたものだとずっと冷たい視線で見ていた。

 好きなヘアスタイルにできるようになってからも、最初こそ今までできなかったロングヘアにしてみたものの、結局自分の好みを追ううちにすぐショートヘアになってしまった。

 

 見た目やそれに関して選ぶものを、「これは女性らしいもの」「これは男性らしいもの」とこだわることは、本当はとんでもなく雑なことなのではないか。

 近現代において培われてきた見た目の「常識」があるのだとすれば、私たちはそろそろそこからもう一歩進化する時なのだと私は思う。

 そして、建前ではずっと良くないと言われていても「結局人は見た目の印象がほとんど」みたいな考えがまだ根強くあり、考えるだけならいいがそれを本人に悪気なくぶつけてしまったり、人が選ぶものをとやかく言ったりするような、社会全体に未だ取り巻く考え方を、もうそろそろ少しずつやめていく努力をしたいとも。たとえ家族など近しい間柄であっても、そういうことを言っていいわけではないということを、意外と忘れてしまいがちだと思うのだ。

 

 とはいえこんな偉そうに書いていても、私もまだまだふとした時に「あの時言ってしまったあれは良くなかったかもしれない」と思うことが1日に何度もあったりして、人のことは全く言えないなと思ったりすることはたくさんあり、それでも少しずつ私自身もいろんなことを学んで、反省をしてどんどんアップデートしていきたいなと考えている。

 そういった考え方のアップデートは、社会から与えられたものに自分が合わせるだけのものではないと私は思う。自分自身のアップデートから、社会を常に良い方向へ変化し続けようとすることが、私たちにはできるはずだ。

 

 

 

イシヅカユウ

 

モデル・俳優

いしづか・ゆう/1991年生まれ。2021年に文月悠光の詩を原案とした短編映画『片袖の魚』で主演としてスクリーンデビューを果たす。雑誌やCM、ショーなどさまざまな媒体で活動中。体が男性として生れながら女性のアイデンティティを持つMtFである。

 

 

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