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インタビュー2018-2019

この人に聞く!

福島 みのりさん

(常葉大学外国語学部准教授)

「『82年生まれ、キム・ジヨン』からみえる韓国社会の今」

『82年生まれ、キム・ジヨン』が生まれた背景

 2016年に韓国で刊行された小説『82年生まれ、キム・ジヨン』(著:チョ・ナムジュ 訳:斎藤真理子 筑摩書房)は、フェミニズム小説としては言うまでもなく、一般小説としても異例の100万部を超えるベストセラーとなりました。主人公キム・ジヨンの半生が描かれていく中で、女性の人生にひそむ差別に基づくさまざまな困難が表現されています。精神を崩壊させていくキム・ジヨンを通して、女性を抑圧している社会構造が立ち現れてくるのです。

 

 韓国は、男尊女卑に基づく儒教の思想が基盤だった朝鮮時代(1392年~1910年)が長く、またその後の日本の植民地時代(1910年~1945年)にも儒教思想が強化されていったこともあり、もともと女性差別の長い歴史を持っていました。

 

 現代の韓国はこうした過去を一掃するかのように、逆にフェミニズムが発展しているといえます。女性学を学べる学部が女子大をはじめ数多くありますし、フェミニズム分野の学問的レベルは先進国といえます。軍事独裁政権時代の1970年代からはじまる労働運動から民主化運動への流れの中で女性運動が活性化し、1987年の民主化以降に高まった女性の権利や男女平等を求める運動により、新しい制度が数多く生み出されました。これまでの父系血統主義的な戸主と家族の主従関係を改めた「家族関係登録簿」(2008年)を導入し、政府機関として「女性部」(2000年に設立、2010年から「女性家族部」に)が新たに設置されました。これら学問の深化や制度改革は、約30年にわたる女性たちの地道な運動や努力によるもので、このような背景のもとこの小説が生まれたことは、韓国のフェミニズム史においてエポック的だといえます。

 

ジェンダー意識をめぐるジェネレーションギャップ

 この本は、まさに現代韓国のジェンダー意識をめぐるジェネレーションギャップを表現しているといえます。この本を読んだ人の世代別の統計をみると、女性では10代~50代まで幅広い層で読まれているのですが、男性では40代、50代を中心にしか読まれていません。10代~30代の男性はほとんど読んでいないということがわかります。40代、50代でこの本に共感した人たちは、いわゆるリベラルな考え方の人たちで、1970年代、80年代の民主化を担った世代です。民主化運動世代の文在寅(ムン・ジェイン)現大統領もこの小説に共感し、政治家100人にこの本を贈ったというエピソードもあります。

 

 一方、10代~30代の若い世代の男性たちの中には、ミソジニー(女性蔑視)現象が非常に強く、この小説を読んでその内容に異議を唱える人や、この本が生み出す女性擁護の風潮や社会現象に嫌悪感を募らせる人などがいます。特に20代の男性たちの中で、女性の権利への主張は男性への逆差別ではないかととらえる傾向があります。韓国は今就職難の時代で、大卒の50%くらいしか就職できない状況です。また、現政権は女性が社会でより活躍できるような政策を打ち出しているため、若い男性たちの中にはそのような政策に対し、「女性だけが優遇されており、自分たちは不利な立場に立たされている。ただでさえ男性には徴兵制があり就職が女性より遅れるのに・・・」と反発している人もいます。

 

韓国の状況からみえてくる日本

 韓国では民主化運動を成功させた歴史から、現在でも環境問題、教育問題などの市民運動が非常に活発です。最近ではMe Too運動が高まりをみせていますが、1990年頃から元従軍慰安婦のハルモニたちが証言をしはじめたことが一つのうねりとなっています。また、2002年に女子中学生2人が米軍の装甲車に引かれて亡くなった事件が起きた際、10代、20代の女性たちが声を上げ、ろうそくデモを行いました。このように、韓国では人々が一体となって声を上げ、ひとつの社会運動としていくことで、意識改革や制度改革につなげているところがあります。

 

 一方、日本では和を重んじる国民性のためか、このような市民運動がほとんど活性化せず、一過性の現象に終わってしまうこともあります。また、社会の問題として捉えられるべきところを個人の自己責任の問題として片付けられてしまう傾向もあり、結果、人々の連帯や共感が生まれにくく、具体的な施策などにつながっていかないのが現状です。また、女性に対するさまざまな社会の璧に対して、日本では「仕方がないよね・・・」というあきらめが強く、声を上げて闘うという風潮が弱いといえます。日本では、専業主婦として子供を産み育てることが女性として立派な生き方だということを内面化している女性も多いため、それ以外の生き方をしている女性たちの肩身が狭く、また両者の分断も大きいため、声が上がりにくいというのも特徴でしょう。

 

 韓国でここまで女性運動が活発化したのは、やはりさまざまな立場の女性同士、つまり同じ境遇にあった当事者としての連帯があげられます。これは、歴史的、社会的な環境が複雑に絡み合い、それぞれの女性の生き方や考え方が多様性を持ちながら共に連帯する中で、フェミニズムが到達したひとつの形といえます。日本でもキム・ジヨンがベストセラーになり、かなり反響を呼んだということは、ある意味日本の女性たちの隠れた声が少しずつ外に出てきたと捉えることができるのではないでしょうか。こうした機会を逃さずに、少しでも女性が生きやすい社会を作り上げていく方向につなげていくことが、今の日本社会に求められているのかもしれません。

 

 

常葉大学「公開講座」の一環で、福島みのり先生による講座「『82年生まれ、キム・ジヨン』から見る韓国フェミニズムの今」が開催されます。シリーズ「人生100年の時代を迎えて」の「K:文学から知る世界」(5回シリーズ)の2回目(10月19日)になります。興味のある方は、ぜひご参加ください。詳しくは、常葉大学ホームページにてご確認ください。

 

公開講座について → https://www.tokoha-u.ac.jp/community/extension-course/

パンフレット(PDF) → https://www.tokoha-u.ac.jp/media/openlecture2019-2.pdf

ブックサポーター 韓国のフェミニズム

あざれあ図書室

『82年生まれ、キム・ジヨン』

(チョ・ナムジュ

     筑摩書房 2018年)

本書は韓国でミリオンセラーとなり、人々の様々な反応を引き起こしました。女性たちが「これは私のことだ」と声をあげているように、作中の女性を通して語られるのは、韓国の普通の女性たちの境遇です。それは、日本の女性たちの姿とも重なります。

『私たちにはことばが必要だ:

   フェミニストは黙らない』

(イ・ミンギョン

   タバブックス 2018年)

「女性が経験する差別」を実感の伴わない人に説明し、理解してもらうことはとても大変なことです。差別問題についての質問に、どのように話すのか、そもそも会話を続けるかどうか、決定権は女性にあると説く著者。女性差別をめぐる会話のマニュアル本です。

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